第一次選考あと一歩作品詳細
『TRUE CROSS~あなたは何を信じますか~』 綾瀬 秀海
選評
不幸な生い立ちから、人を信じることができない男、薫は、大学時代の恋人、仁美の励ましによって人を信じることの大切さを学ぶ。が、ある日、仁美は雪山で遭難して行方不明に。傷心の薫は、仁美とそっくりな女、ハルカに出会い、恋に落ちる。薫はハルカと結婚することになるが、ハルカには驚くべき秘密があった ──。ドラマチックなストーリーで、ぐいぐい読ませる。ラストの謎解きに至っては、韓流ドラマも真っ青などんでん返しの連続。主人公が恋するハルカが、死んだ恋人の仁美にそっくりなのは、仁美がハルカの幼なじみで、憧れの存在であり、自分の顔をハルカに似せて整形していたのだというアイデアは秀逸。また、その仁美が実は死んでおらず、ハルカと入れ替わっていたのかもしれないというミステリアスな終わりも、「う~ん」とうならせるものがある。ただ、惜しむらくは、ことの真相を最後になって突然登場する叔母が語り出したり、ハルカがなぜ、その真相を薫に伝えず黙っていたかの説明(伏線)がなかったり、ストーリーに少なからずほころびがある点。従って、薫がなぜ、疑惑の残るハルカを信じて愛そうと決意するのか、その最も重要な決意の根拠が見えず、すっきりした読後感が得られない。これは悪女たちの数奇な人生を描いた物語なのか、あるいは人を信じられない男の成長を描いた物語なのか、はたまたその両方なのか、そのあたりがすっきりと伝われば、この作品はとても完成度の高い作品になったのではないか。ちなみに、非常に些細なことではあるが、誤字脱字が多く、場面や心理の描写に拙い言語表現が見られるのも残念な点のひとつ。
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