第一次選考あと一歩作品詳細
『私が男だったころ――ある男性ホストの回想』 入谷 さほ
選評
昭和40年代、女を演じることに疲れた麻里は、男装ホストになりさまざまな女たちと交わる。そして、彼女たちの寂しさを知っていく。大学を卒業した麻里はその後、美術高校教師となり、女たちの愛の島、理想郷へと至る──。女しか愛せない女たちの孤独と愛。めくるめく官能世界に浸った。力作だ。ラブストーリーと呼ぶにはあまりに哲学的で、浮世離れしているが、一種の冒険小説を読むような感じで楽しめる。ただ、ところどころにハッとするような警句や箴言がある一方、「麻里という主人公が性の遍歴をする」というストーリーが短くて食いたりず、いささか観念的に過ぎるような気もする。登場人物も多いわりには、パッと出てパッといなくなってしまうために印象が薄く、物語を散漫なものにしていることは否めない。この題材で、キャラクターとキャラクターがぶつかり合い、ストーリーをぐいぐい動かしていくようなダイナミックな作品を読んでみたいと願うのは贅沢に過ぎるだろうか。
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