第一次選考あと一歩作品詳細

『夜に舞う蝶』 阿部 彼方


選評

30代後半から40代の男性のキャバ嬢への純情(?)を描いた、珍しいタイプの恋愛小説。主な舞台はキャバクラで、一般的な恋愛小説で登場するような舞台設定ではない。しかし、会社以外に所属する集団を持たないようなサラリーマンが、現実に(疑似)恋愛関係を築く機会を持つのは、キャバクラなどの風俗店を介してのことなのではないか。その意味では、非常にリアリティに溢れた作品であると思う。職場では、キャバクラにハマり、抜け出せなくなってしまっている会社の同僚も登場するのだが、その描写もリアリティがあって、作品全体に良いアクセントとして効いているように思われる。それ以外のキャラクターも、それぞれ個性的に描き分けられており、文章の中からそれぞれの人間性が垣間見えて面白く読むことができる。とくにヒロインのキャバ嬢・夕綺音のキャラクター描写は際だっており、萌え系の小説に登場するようなそのキャラクターは、その手の小説が好きな人たちにとっては受け入れられるのではないか。しかし物語としてはやや起伏に欠けるし、終盤の展開もいまひとつ盛り上がりに欠け、物語全体としてどこか平板な印象を与えてしまっているところが残念だ。ロマンティックに、あるいはシリアスに盛り上げていくことができる箇所が随所にあるにもかかわらず、そこを上手く展開できていない。基本的な設定と題材は面白いため、作者の今後に期待したい。

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