第一次選考あと一歩作品詳細
『詩篇幻想 黄泉は紫陽花の香り』 千石 アヤノスケ
選評
かつてヒトが大地を支配するために生み出された式神は、平安の時代に国家同士の戦の道具に利用され、式神を操るいくつかの集団との争いは絶えなかった。 というような世界を舞台に、式神使いの頂点に君臨する「灰」と、ヒロイン瑞華との愛が描かれる。壮大なスケールのサイキックファンタジー。 冒頭、ヒロインの登場シーン。「僅か顎のさわりを通り過ぎた、驚くほどに白い、万年白雪にも勝るべく白い娘の頬に、はては襟元に、幾許か花の香を感じた。その不思議なまでに心引き立てる芳しさは、僕の幼い戸惑いをねじ伏せて、自身を忘れ去らせてしまうものかと思えるほどに、強く誘う。畏怖を治めてもなお、さらに僕が息を呑む事になったのは、口元。 微笑んだ──」 この完成度の高い文体は、プロなみで、その優れた描写力には舌を巻きました。 また、壮大な世界観を作り出す想像力も大したものだと思います。 ただ、そのスケールの大きさゆえに、「ラブストーリー」という枠組みを超えてしまった印象もあります。だからといって、もっと恋愛にしぼった小さな物語にしてしまうと、この作品そのものは台なしになってしまうでしょう。その意味で、この作品は日本ラブストーリー大賞の評価のメーターを振り切ってしまったと言えそうです。 できれば改稿して、評価の枠にふさわしい賞に応募しなおすことをおすすめします。 その際の、ささやかなアドバイスですが、地の文の視点を、一人称か三人称に統一してはいかがでしょうか。冒頭から「灰」→「瑞華」→「庸」と一人称の視点が移り変わっていくところまではまだついていけるものの、そこから視点が三人称になり、また一人称に戻っていくに至っては、読者の感情移入を妨げる効果しか生みません。 そうした読み手への配慮を心がけて改稿すれば、さらによい作品になると思います。
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