第一次選考あと一歩作品詳細

『まちびとまち』　吉川 アール

選評

誰かを待っている人を見ると、その人の視線の先に、その場にいないはずの人の姿「待ち人」が視える、という設定の女子大生が、男子高校生と恋に落ちるミステリアスな物語。文章にはやや推敲の余地はありますが情景、情緒とも確かな描写力で、とくに主人公が「待ち人」を視る場面は、超常的な経験の特質をよくとらえており出色の出来映えです。また、クライマックスの手前で、主人公が得た「待ち人」を視る力の意味を180度変えることでストーリーを転換させる仕掛けも面白く、かなわない恋の切なさをドラマティックに表現する伏線として活きており、最後のデートのシーンは泣かされました。惜しむらくは、枠物語に設定された異界やラストのオチが説明的で、メイン・ストーリーを盛り上げる上であまり効果的ではないように思えることです。不思議なことは不思議なもの（思考不可能なもの）として、大胆に描いてみてもよかったのでは。

→ 一覧に戻る