第一次選考あと一歩作品詳細

『バンビの恋』 きみよし 藪太


選評

疾走感のある文体でつづられるモノローグで、恋愛音痴の高校生リカコが自分の気持ち(他人の気持ち)に気づくまでを一気に読ませます。主人公の独白体は青春小説の一つのパターンとはいえ、筆者はそれを見事に使いこなしています。情景や人物の描写も確かで、会話もテンポよく、腕時計、バイクなど小道具も物語のなかで効果的に使われており、心憎いほどの演出です。また、恋愛のなんたるかを知らないリカコに、元家庭教師や友人たちが振り回されるさまを描くことで恋とは何かを言外に物語る仕掛けも成功しています。あえて不満を言えば、本作で取り上げられたモチーフは、どちらかといえば短編向きかな、と思えることです。テレビドラマに喩えれば、この作品の面白さは一話完結の一時間番組の面白さです。二時間、人を釘付けにするストーリーを考えてみていただけませんか。

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