第一次選考あと一歩作品詳細
『薔薇色のマドンナ』 蔵臼 ぶん
選評
人事のスペシャリストとしてのキャリアを捨て単身、翻訳家としての道を歩んでいるヒロイン・佐伯美沙。40 代を迎え、結婚はおろか恋愛にすら興味を失っていた彼女が偶然、過去に恋の予感を感じさせた男・田村泰彦と出会う。16年ぶりの再会から密に連絡を取り合うようになった2人は、お互いに過去の関係を鑑みると同時に、再度、互いの距離を縮めようとする──。心理描写、セリフ回しが繊細で、主人公の心情が非常に丁寧に描かれている。また、情景描写も秀逸で、恋の対象役となる男・田村に(あえて)バラの花を組み合わせたのも言い得て妙な取り合わせで面白い。舞台・人物設定に対して感情移入するに難くない設定だけに、非常に読み易い作品だった。惜しむらくは、物語が単調に進行しすぎる点。リアルな日常が描かれてはいるのだが、得てしてそれが「普通すぎる」ように感じさせ、間延びしてしまう感が否めない。ハッとさせるような出来事、インパクトのあるエピソードなど、多少でも読者を惹きつけるような描写を組み込めば、さらに「普通すぎる」日常が生きてくるのではないか。
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