第一次選考あと一歩作品詳細

『馬券の手紙』 月森 新


選評

小学生の進一の学校に、新任の美人教師、鮎川先生がやってきた。クラスのみならず、学校中がそわそわワクワクするような美人だ。しばらく幸せな状態が続くが、内山という転校生がやってきて事態は一変する──。学校に鮎川先生がやってきて、学校中がそわそわワクワクするあたりの様子は、みずみずしい文体で丁寧に描かれており、魅力的。そうとうの実力をもった書き手である。ただ、それだけに惜しいのは鮎川先生の暗い過去の設定が強引で、結末の悲劇がとってつけたような印象を受ける。また、「白い花を染めたチョークの粉」という小道具も、進一がそれを使った動機やそれによる苦い感情などが描写されていないため、あまり生きていない。また、題名にも使われた「馬券」という題材も、今ひとつ生かされていないように感じた。以上の欠点を取り除くためには、あと3分の1くらいの長さが必要だろう。前半の幸福感が圧倒的にうまく書かれているだけに残念だ。

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