第一次選考あと一歩作品詳細

『シュウの恋』 南 カンヌ


選評

海辺に捨てられたバスを舞台に、ふたりの少年とひとりの少女が幸福なときを過ごす。だが、少年のひとりが少女を犯したことで3人は決定的に決別する。その後、少女は30歳になり、残された少年と結婚する。だが、結婚生活はうまくいかず、30歳の少女は逃げ出してしまう。30歳の少女は、海辺に捨てられたバスを見つけ、そこに暮らしていたカメラマンの透との恋に落ちる──。海辺のバスというビジュアルが印象的な美しい作品。また、海辺のバスを中心に、少女時代のエピソードと30歳になってからのエピソードが交錯する叙述ミステリーのような形式もユニークで珍しい。だが、その叙述ミステリーを解体して、ストーリーを解読すると、そこで起こっている出来事は、いささか陳腐であることは否めない。男と女のモノローグを交互におりまぜる文体も、登場人物の内面を浮き彫りにする反面、ストーリー運びのリズムを緩慢にしてしまっている。このような複雑な構成の小説は、作品のテーマ性やストーリーのおもしろさ、読後のカタルシスを弱くしてしまうというハードルがある。トリッキーな作風を持つ作家は、つねにそのハードルを超えようとあの手この手を使うわけだが、この作品に関しては、そのハードルを超えきれなかったという印象がどうしても残ってしまう。

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