第一次選考あと一歩作品詳細

『きょうのいろ、きょうのかおり、きょうのゆめ』 種蒔 育実


選評

高校時代のほぼ全ての交友関係を捨て、フリーターとして過ごしていた私は、勤務先のカフェの常連客の大人の愛人となる。だが、高校時代の同級生のリョータ(バツイチ)が近づいてき、同じく同級生の麻子の励ましなどあって、私はリョータと結ばれる。「例えば確実。あるいは圏内。大学受験に失敗した私は、世の中に溢れる言葉のなかには、入れ物となっているだけで中身のないものも数多くあるのだということを知り、半分だけ心を閉じた」。なかなかの名文で、う~んとうならせる。江國香織の作品を思わす気品のある文体だ。ただ残念なのは、提示されたエピソードがところどころ未消化で、例えば冒頭に登場したカフェのママや、高校時代の友人の麻子など、短い作品にもかかわらずストーリーからはみ出してしまった印象を受ける点。もう少し、全体のストーリーの流れを構成しなおし、この1・5倍、あるいは2倍程度の長さになれば、とてもいい作品になると思う。高校時代の交友関係を絶ったはずの主人公が、なぜ麻子やリョータらと付き合いを再開したのか、そのあたりの説明もほしいところ。

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