第一次選考あと一歩作品詳細
『お蓮の桜』 松尾 政彦
選評
堺の豪商の娘・お蓮と、吉野の桜守の荘吉との悲恋を描いた作品。お蓮がある年吉野へと花見に出掛けた際、桜守見習いをしている荘吉と出会うことになる。お蓮と荘吉はその後互いに惹かれ合うようになるものの、豪商と桜守という身分の違いに基づく溝を埋めることはできず、結局二人の恋は引き裂かれてしまうことになる……。吉野の桜の情景は大変美しく、その桜と吉野の緑を背景に織りなされる恋愛模様もまたロマンティックであり、後半までの展開は良いのだが、後半から終盤に欠けての展開は勢いとまとまりがなく、唐突に物語が終わってしまうような印象を受けた。終盤の山場を物語冒頭に持ってくることで物語を印象づけようとする作品は多く、この作品も例外ではない。そして、その場合には後半においてその山場に勝るとも劣らない展開が期待されるのだが、この作品の場合、そうした処理を行わず、ただ単に山場を冒頭に持ってきてしまっているだけになってしまっている。そのため、後半から終盤にかけて盛り上がる箇所がなくなってしまい、展開がだらけてしまっている印象を受けることになる。このような点をうまく処理できたならば、非の打ち所のない作品となったのではないだろうか。
→ 一覧に戻る