第一次選考あと一歩作品詳細
『ありあ』 ありあ.n
選評
かつて玲とゆきえの3人で娼婦をしていたありあは、ポルシェにのった白馬の王子様、遼と出会って娼婦を辞める。だが、遼は病気で死んでしまった。ありあを救ったのは、清二というバンドマン。その後もありあは何度も男を渡り歩くが清二は何も言わなかった。だが、バンドのギタリストkaiに手を出してからは仲がギクシャクし、さらには清二は伊豆の母親が癌になったことで帰郷してしまう。玲は結婚して、モデルをしながら主婦に。ゆきえはシングルマザーになって子育てに励む。ひとり残されたありあは、ライブハウスで歌い続ける──。14行詩のようなポエムがズラリと並ぶ斬新なスタイル。そこで語られる80年代の横浜を舞台に不良少女ありあの生き様が語られる。とてつもないパワーをもった作品だ。ところどころ差しはさまれる、ドキッとする箴言やメッセージにはインパクトがある。が、時系列がバラバラに描かれているせいか、今、読んでいるエピソードが今なのか、昔なのかはっきりせず、何度も物語の勢いから振り落とされそうになった。80年代の横浜と言えば、永ちゃんやジョニーがいた「おいしい時代」。その時代性をしっかり腰を据えて描写すれば、この作品は万人に訴えかける傑作になったのではないか。非常に惜しい。
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