第一次選考通過作品詳細
『ハナビ』 中居 真麻
三人姉妹の末っ子和歌子は、19のときに家を出て、四年ぶりに戻ってきた。そこにはたくましい母、静かで植物のような次女と寡黙ですべてに関して無な父がいる。太陽のようなバツイチの長女は、たまげたエピソード付で時々やってくる。和歌子はそんな家族に囲まれ、不眠症まがいの生活を「マカユメ生活」と名づけ、考えごとをひたすらに繰り返しつつ、友人に紹介された正樹との新しい恋が静かに、スムーズに始まっていく。和歌子には忘れられない過去がある。大事な人、華日(ハナビ)だ。17歳から続くハナビとの思い出は和歌子の成長過程でもある。友人や姉たち、また父や母の恋を見ながら、和歌子は本当の愛の意味を感じるようになり、いつもの日常に大切なものがあることに気づく。
選評
やさしい小説だ。今も主人公和歌子の心に大きく残っている高校時代の友人ハナビの存在。始まったばかりの恋人との関係が進むにつれ思い出される過去のハナビとのエピソード。その中で、和歌子の高校生らしい異性の友人への微妙な感情が、何気ない会話と真っ直ぐな心情描写で伝わってくる。また、現在進行形で時々に現れる友人や家族のキャラクターもそれぞれの恋のエピソードも完結ながらも、それでいて味わい深い。非常によく練られている。大切な人がいる喜びをストレートに表現し、それが素直に読む側の心に染み込むやさしい小説。
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