第一次選考通過作品詳細

『怒る女と順応する男の愛』 宮尾 信

結婚にロマンを求めていた夢見がちな主人公、田島真一が結婚したのは家事ができない、ワガママなヒステリック女、凉子だった。 ひたすら地獄のような結婚生活を送る主人公は、何度もそこから逃げ出そうとするが、やがてその地獄に順応していく。


選評

「結婚生活の倦怠」という題材は、コンスタンの『アドルフ』。 だが、それよりもドラマチックに物語は流れず(要するにヒロインは死なず)、町田康のような饒舌な文体によって、ひたすらその『鬼嫁日記』的な日常を執拗に描く。 平成版『死の棘』(島尾敏雄)、『痴人の愛』(谷崎)という感じ。 ところでこの話は、自らの新婚時代の思い出を綴ったものだそうで。 このディテールの厚みは、ある意味、私小説でしか書けなかった厚みなのかもしれない。 難を言えば、悪妻との生活に順応していく主人公の心理の移り変わりが丁寧でないこと。 「ラストにオチがない」と物足りなく感じる人もいるかもしれない。 枚数が足りず、作品として完結していない感じがする。 ラスト、悪妻との生活に順応していく主人公の心理描写は、安部公房の『砂の女』のような道具立てを用意してもらえば、文句なしに評価できる作品になったと思う。

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