第二次選考通過作品詳細
『わが恋は炎なりき』 木下 富砂子
木上八郎は、戦前の満州で商売をしている兄を訪ね、兄嫁に生涯の恋をする。 やがて時代は戦争に突入。 兄嫁への一方的な思いを抱き、操を立てながら、八郎は世界を遍歴する。 やがて、放浪から帰ってみると、兄は事業に失敗して失踪。 兄嫁との結婚生活は破綻していた。 しかし、八郎の捜索は間に合わず、兄嫁は自殺してしまう。
選評
『わが恋は炎なりき』は、戦争を舞台にした、プラトニックな恋愛を描いた作品です。
これまで鋭く舌鋒を振るっていた委員が一転、「 今回、読ませていただいた第二次選考の作品で、唯一、泣いた作品」(坂梨)と評価したことで選考会は大いに湧きました。その感動のポイントとしては、 悲惨な出来事が描かれていながら、飄々とした口調でサラリとそれを描いている文体にあるようです。作者が75歳の女性という点にも多くの委員が興味を持っ たのも、「逆に若々しさを感じる、みずみずしい文章。他の作品と比べると、圧倒的に誤字が少ないし、丁寧に書かれている感じが伝わってきた」(広坂)とい うのが理由のようでした。
ただ、その一方、 「ラブストーリーに戦争という題材をもってくるには、どうしても戦時下ではなければ描けなかったストーリーがそこにあるから。その点では、そこまでの必然 性をこの作品に感じることができなかった」(稗田)という意見もありました。確かに映像化を前提とする日本ラブストーリー大賞には、この問題はつねについ てまわる問題です。 それでも、圧倒的な文体の力と、多くの戦記ものの中でも特別に光るリアリティへの評価は高く、この作品は通過作品となりました。
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