第二次選考通過作品詳細

『リリエ』 藤 初夏

金融会社で国際業務を担う凛子は、あるカンファレンスで、商社に勤めるクォーターの男性・ジャックと知り合う。両親、恋人と死に別れ、人を愛することを恐れるようになった凛子だが、ジャックと何度か会うたびに、食べ物の好みなど驚くほど共通点があることを発見し、魅かれていく。ジャックも同様だが、彼にも大切な人を喪った経験があり、しかもロンドンには婚約者が待っていた。喪うことの辛さから、互いに「愛している」と言えない二人。葛藤の末、二人は、「愛している」という言葉ではない、自分たちだけの言葉を考え出す。「リリエ」この言葉を重ねながら、豊かな時間を重ねるが、別れの時は迫っていた……。


選評

『リリエ』は、金融会社で国際業務を担うヒロインと商社マンとの恋愛を描いた作品。「愛している」と言えない事情から、それを「リリエ」という言葉に置き換えて意思を伝え合うという面白い着想が話題を呼びました。
 「大人同士の愛の寓話として読めた」(梅村)、「叙情的ながらリズミカルな文章が印象に残る。センチメンタルに過ぎて好みが分かれるかもしれないが、その文体を最後まで変えることなく書き通した点はすごい」(広坂)と、その世界観に抵抗なく溶け込めた委員もいれば、逆に引いてしまった委員もいたようです。
 「あからさまに『愛している』と言えないから『リリエ』という言葉が出てきたのに、ふたりはあまりにあからさまに『リリエ』と言い過ぎている。また、『愛している』と言えない事情も、男性に婚約者がいるというだけでは説得力がない」(高嶋)、「映像化する際に、『リリエ』と言い合う大人の男女の姿はコメディになってしまいそうな危うさがある」(稗田)
 残念ながら、反対票が賛成票を抑えてしまう結果になりました。
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