第二次選考通過作品詳細

『ハナビ』 中居 真麻

三人姉妹の末っ子和歌子は、19のときに家を出て、四年ぶりに戻ってきた。そこにはたくましい母、静かで植物のような次女と寡黙ですべてに関して無な父がいる。太陽のようなバツイチの長女は、たまげたエピソード付で時々やってくる。和歌子はそんな家族に囲まれ、不眠症まがいの生活を「マカユメ生活」と名づけ、考え事をひたすらに繰り返しつつ、友人に紹介された正樹との新しい恋が静かに、スムーズに始まっていく。和歌子には忘れられない過去がある。大事な人、華日(ハナビ)だ。17歳から続くハナビとの思い出は和歌子の成長過程でもある。友人や姉たち、また父や母の恋を見ながら、和歌子は本当の愛の意味を感じるようになり、いつもの日常に大切なものがあることに気づく。


選評

 『ハナビ』は、お互いの存在を掛け替えのない存在と知りながらも、友情以上恋人未満という位置で留まり続ける男女の不思議な関係を描いた作品
 「思い焦がれる人を『友人』とか『恋人』といった言葉で安直に定義せず、その思いの核を見つめようという姿勢に深く共感した」(梅村)、「soulmateという存在にリアリティがあり、多くの人の共感を得るに違いない」(潮凪)など、題材に共感する委員が多かった一方、「ひねくれた江國香織のような文体が心地いい。父親の愛人をタンスと呼ぶセンス、電車のおやつに頭脳パンを買うセンス、シンドラーのリストを観た後に焼肉を食べに行くセンス、どれをとっても可笑しい。シャケナパスタという得意料理の名前にもやられた」(高嶋)と、独特の文章感覚にも賛辞が集まりました。
 が、難点もなかったわけではありません。「場の空気や人物をよく描きだしてはいるが、ストーリーが堂々巡りでしまらない」(坂梨)、「ふたりがついにセックスを試みてそれに失敗するあたりがストーリーのヤマ場だと思うが、それ以降、急速につまらなくなっていく。後半を冗長に感じさせないためには、ヤマ場から一気にラストへ持っていくべき」(高嶋)と指摘もされました。ストーリー展開が感覚的な文体に引っ張られているため、“見せ場”が弱くなってしまったという面もあるかもしれません。
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