第二次選考通過作品詳細

『パラドコンプレックス』　鈴木 紫乃

大学のゼミの同窓会で久しぶりに再会した恵子、麻美、薫（男）。３人は薫の家で飲み直し、もう一人の仲間、千沙を思いながら、それぞれの空白を埋めるように語り始めた。　千沙はゼミの中でも麻美と１、２を争う美人だった。彼女の美には魔が潜んでいた。誰よりも愛されることを望みながら、同時に愛されることを憎む。そんな彼女を恵子は「羨ましい」といい、「だったらあげるよ」と千沙はキスして、翌日自ら命を絶った。それは恵子に宿った肉体の魔が覚醒した瞬間だった。それからというもの、恵子は男を求めて体が疼き、手にした男を次々と不幸にしていった。一方、薫にはそんな恵子に潜む心の闇に気づき、逃げ出した過去があった。そんな薫と付き合う麻美は、心の中で常に恵子に嫉妬していた。薫の中にいつも恵子がいることを。あるとき、大学院を卒業し図書館に就職した恵子に転機が訪れる。職場で知り合ったゲイ、明人に偽の婚約者になることを頼まれ、彼の実家にやってくる。そこで、弟の智士が恵子に恋をしてしまうのだ。初め、年の若い智士を恵子は拒んだが、そのうち気になる存在に。しかし、またも自分が原因で、智士を傷つけてしまう。自分を好きになった男は次々に不幸になる、そんな自分に耐えきれず、恵子は自分を変えようと決意する。そして、ある先生の助けを借りて、ようやく立ち直るきっかけを掴むのだった。話を終え、白み始めた街を帰路につく恵子。自宅に着くと、玄関先になにやら人影が。それは、３年を経過し大人っぽく成長した智士の姿だった――。

選評

『パラドコンプレックス』は、若さと美しさ、そして魔性の魅力を秘めた女子大生達が次々に周囲の男を翻弄していく物語。
　「作者の美へのこだわり、欲望が洗練された文章で表現され、恋愛を通じて大人になっていく女性の成長の過程がキレイにまとめられている」（石田）という評価や、凝った文体を評価する意見もありました。ただ、その一方で「『百人いれば百通りの感慨があるということを、人の死がつくる沈黙は思い出させる』など、当たり前のことを難しく表現する文章は、このストーリーを語るにはそぐわない」（高嶋）と、逆にその文体をマイナスととらえる意見もありました。確かに修辞句には工夫が見られるものの、小説としては視点のバラつきが著しく、読みにくい文章であることは否めません。
　また、「３人の女子大生のエピソードを描くには長さが足りず、話を詰め込みすぎている印象。それぞれをキチンと並列的に描くか、ひとりのエピソードに絞るかした方が、読み手に親切」（稗田）といった構成に関する意見もありました。観念的な文体を書ける力量があるだけに残念ですが、その文体に説得力を与えるには、ストーリーを効果的に語れる構成力も重要なようです。
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