第二次選考通過作品詳細

『名も知らぬ君と』 高橋 亮光

電機メーカーから内定をもらっていた大学4年の本田建志(主人公)はクリスマスイヴの夜、付き合っていた女性にフラれた。ヤケ酒をあおって目覚めると、隣には見知らぬ年上の女性(29)が眠っていた。「未来からやってきた」「私は未来のあなたのお嫁さん」だと説明する彼女の言葉を、「僕」は最初、信用できない。しかし、同棲を始めてみると、たしかに多くの・思い当たるフシ・が……。徐々に信じるようになっていくとともに、「僕」は彼女に対して恋心を抱くようになる。でも、「僕」はなかなか彼女とセックスができない。セックスをしてしまえば未来が変わり、彼女も目の前から消えてしまうのでは……と危惧していたから。 とはいえ、誘惑に勝てなかった「僕」は彼女と結ばれた後も、彼女が消えることはなかったのだが、二人で年始に「僕」の故郷・福岡に里帰りした時、彼女は消えてしまう。ここで話が終わってしまうかと思いきや…… 大学卒業直前、ある文学賞の大賞を獲った「僕」は内定を断り、かねてからの夢だった作家への道を歩み始める。その3年後、彼女から聞かされていた「二人が出会ったキッカケ」を再現するために、札幌に移り住む。そしてクリスマスイヴの夜、彼女の言葉通り、二人は出会う――。


選評

『名も知らぬ君と』は、失恋した大学4年生の青年が、突如、未来からタイムスリップしてきた“未来の妻”である29歳の年上女性と出会い、恋をするという物語。設定の奇抜さに比べてストーリーは意外にもストレートで、主人公とヒロインとのほのぼのしたデートシーンが丁寧に綴られますが、未来から来た年上女性のキャラクター設定には賛否の意見が集まりました。
 年上らしく、しっかり者で家事に長け、ときには主人公を叱りつける芯の強さをもちながらも、別の場面では弱さを見せる「ツンデレ」女性としての魅力に惹かれたのは男性陣でしたが、女性陣からは「ムカッとくる」という反感を呼んでしまいました。
 また、タイムスリップという題材には、なぜ、未来からやってきた女性は主人公の前から姿を消さなくてはならなかったのか、その理由が明かされていないという指摘もあり、過去と未来が結合するクライマックスでは「もう少し腑に落ちる仕掛けがほしかった。同じような題材にはロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』があるが、それを超えられなかった」(稗田)という意見がありました。
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