第二次選考通過作品詳細

『蝉の声』 一生 涼

舞台女優の悠美は、会社経営者の英嗣の愛人になり、女の色香を身につけ、一流の女になる。が、英嗣は政治事件にまきこまれ自殺をしてしまう。 失意の悠美は、英嗣の息子の真治に出会う。 悠美は、かつて自分が英嗣にそうされたように、真治を育て、一流の男にしようとする。


選評

『蝉の声』は、大胆な性描写に挑戦した官能小説です。セックスという題材に真正面から取り組んだ作品は珍しく、「性的な面も含めた恋愛によって、男も女も 成長していくということを表現した作品として、その勇気は買える」(梅村)との評価は多くの委員に共通していました。が、その反面、「女性である私が読む 限り、性描写が陳腐で登場人物にも共感できなかった」(梅村)、「着想は面白いが、その着想を肉付けする際の工夫に欠けている。登場人物らの成長過程を もっと丁寧に描いてほしかった」(高嶋) という見方もありました。登場人物の描き方にムラがあって、よく練り込まれているキャラクターと、薄っぺらなキャラクターとごちゃまぜになっているという のも残念なポイントです。
 最後に委員のひとりからささやかなアドバイス。「僕はこれは、ピグマリオン伝説の変形の物語だと思って読みました。『フランケンシュタイン』や『マイ・ フェア・レディ』みたいなものですね。だから、よくある育成ゲームみたいに、男が女を、女が男を育てていく過程にこだわってほしかったですね。途中で育て 方を間違って、『こんなはずじゃなかった』なんて元に修正する場面があったりしても面白い」(広坂)
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