第二次選考通過作品詳細

『刹那』 ユカ

家族に恵まれず、学校にも馴染めず、孤独で無為な日々を送る高校生・響は、出会い系サイトで年上の女性・香代と知り合い一目ぼれをする。だが、香代の心は、いまだ元カレである大西にとらわれていた。そして、彼女が大西にとらわれていたのは、「心」だけではなかった。響は、香代の家で、大量の錠剤をみつける。それは、覚せい剤だった……。クスリの影響と響への思いとが入り交じり、次第に壊れていく香代。二人の悲劇的な恋は、やがて周囲をも巻き込んでいく……。


選評

『刹那』は、学校にも家庭にも自分の居場所を見つけられない高校生の主人公と、彼が出会い系サイトで知り合った年上の女性との恋愛物語です。
 「15歳の作者の冷めた視点でイマドキの男女の恋愛を表現した、心にひっかかる作品」(石田)、「今回の応募作品は『死』が関係する作品が多くて辟易したが、この作品の中に出てくる『死』には、怖いくらい違和感を感じなかった。その理由はきっと、15歳の作者が『死』という概念を『食事をする』のと同じくらい当たり前のものとしてとらえているからではないか」(高嶋)という熱い意見が多く寄せられたのは、それだけインパクトのある作品であるという証拠でしょう。
 が、そのインパクトが「15歳」という作者のプロフィールに頼り過ぎている面もあるようです。「ここで描かれている物語が、作者の心の中にある本当のリアルなのか、それとも単なる空想の中の遊びに過ぎないのか、最後まで判断に迷った」(梅村)、「短いセンテンスを積み重ねて話を膨らませていく手法には、才気を感じるし、ケータイ世代の会話や反応など世相を切り取っているのかもしれないと思う反面、軽薄すぎる人物や行動にはとても共感できなかった」(坂梨)という反応がそのことを物語っています。
 ただ、15歳でこれだけの反響を呼ぶ作品を書き上げるというのは、かなりの筆力があるということに変わりありません。今後は等身大の身近な題材で別の物語に挑戦するか、あるいは本作の方向性をさらに昇華させるかで、ものすごい書き手が誕生するはずです。
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