第一次選考通過作品詳細

『イエロー・チューリップ』 郷音了

ブライダルコーディネーターの「私」のもとに真理子という女性が現れる。 真理子は、雅海という4年前まで「私」が付き合っていた男の恋人だという。 雅海は、何の前触れもなく、真理子のもとを離れ、失踪してしまったのだ。 真理子の存在によって、「私」の心の中で雅海との思い出が駆けめぐる。 「いちばん」に愛してもらえなかった雅海の心には、確かに何かがあった。 雅海が誰にも言えずにひとり抱えていた思いとは何だったのか──。


選評

ブライダルコーディネーターという仕事について、行き届いた取材がしてあり、「私」の後輩の荒木、上司の高柳、取引先のレストランシェフやマネジャーに至るまでキチンと書き分けられ、それぞれにおいしい役回りを与えられている。 それによって、都会で仕事に生きる女性の心理が見事に浮き彫りになっており、彼女の日常が「失踪したかつての恋人」の存在によって微妙にかき乱される様が説得力をもって描写されている。 前半で撒かれた伏線が、後半によって解き明かされていく段はイッキに読ませる。 誰しもが望む「永遠の愛」は、「望みなき愛」(イエロー・チューリップの花言葉)ではあるけれども、結婚式という場で誓い合う「一瞬の永遠」には真実がある。 この作品が提示するテーマには、万人に訴えかける説得力があるのではないか。 文章の描写力、構成など、すべてにおいて合格点を超えた、極めて完成度の高い作品だ。 あえて意地悪な目で難癖をつけるとすれば、宮部みゆきをはじめとする既存の女流作家の本の中には、このレベルの作品はゴマンとある。 その意味で、「今まで一度も読んだことのないインパクトのある作品」という新人作家への最大の賛辞を贈ることはできない。 だが、ホームランではなくとも、バットを短く持って確実なヒットが打てるという技法を20代にしてすでに身につけているということは驚愕に値する。

一覧に戻る