第二次選考通過作品詳細

『エンドレス・エンド・レス』　百成 ヒロオ

テレビ制作会社に勤めていた維佐子・２９歳は、人間関係の煩わしさを避けて今はアルバイトを掛け持ちして、都会の片隅でひっそりと暮らしている。その一方 で、ＡＤ時代の男友達、南と早瀬との交友も続いており、小道具制作の仕事を臨時で引き受けたりもしている。 維佐子はバイト先の一つ、ファミレスでウエイトレスとして勤務しているときに、自分を見つめる視線に気づく。ストーカーかと不安になるが、それは１２歳の 小学生・以庵からのものだった。１７歳年下の少年からの求愛に維佐子はとまどうが、以庵の真剣さにほだされて、マンションの自室に招くようになる。 こうして、風変わりな交際が始まったが、やがて無言電話、以庵の母親への密告、警察への通報など、嫌がらせがあいつぐ。すがりつこうと思った友人・麻美は 父の危篤に動揺し、頼りなる男友達の早瀬は麻薬所持で逮捕される。追いつめられた維佐子は旅に出る決意を固め、長年わだかまりつづけていた父親に訣別し、 長い旅の準備を始める。 出発の日、もし来るなら、と教えた待ち合わせの場所・新宿西口地下のタクシー乗り場。タクシーを降りた維佐子の前に、泣きはらした以庵が立っていた。あら ためて以庵への愛を自覚した維佐子は、追いすがる以庵をあえて置き去りにして一人旅立つ。

選評

『エンドレス・エンド・レス』は、12歳の少年と29歳のフリーター女性との恋愛を描いた作品です。その年齢差はなんと17歳。同様の年の差ストーリーの中でも、とりわけインパクトがありました。
　「小学生の以庵が魅力的に表現されているので、情熱的に人を恋する気持ちは子供も大人も同じだと納得させられる。大人の女性が自分の子供ほど年の離れた 少年のことを本気で愛せるのかというテーマも興味深い」（石田）という意見がある中、この設定に素直に引き込まれなかった委員もいました。「もてなくて寂 しい女性が12歳の男の子の一途な思いにクラっときてしまった、というのならまだ分かるけど、主人公はとってもモテるし、寂しさを紛らわせてくれる男友達 もいる。それでもなぜ、12歳の子に惹かれたのかという部分をもっと描いてほしかった」（高嶋）。「どの人物の行動も上っ面で空疎。ラストの主人公の行動 にはその独りよがりな言い分に呆れた」（坂梨）。
　その点では、「29歳の女性の視点で描くのではなく、12歳の少年の視点で描かれたほうが、より説得力があったのではないか」（稗田）という意見もあり ました。ただ、その一方で「あり得ない設定を、あり得ない設定として描いているところにこの作品の新味がある」（広坂）という反論もあり、評価は真っ二つ に分かれました。
　12歳の少年にも、同年代のふたりの男性にもモテるという主人公のキャラクターは、ある意味で現代女性の理想を描いたファンタジー的な願望小説とも言え ます。「そのファンタジーを成立させるには、17歳の年の差恋愛という最も弱い部分に説得力がなくてはならない」（梅村）という問題点も残しながらも、作 品自体のインパクトは捨てがたく、選考を通過することになりました。
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