第二次選考通過作品詳細

『イエロー・チューリップ』 郷音了

ブライダルコーディネーターの「私」のもとに真理子という女性が現れる。 真理子は、雅海という4年前まで「私」が付き合っていた男の恋人だという。雅海は、何の前触れもなく、真理子のもとを離れ、失踪してしまったのだ。真理子の存在によって、「私」の心の中で雅海との思い出が駆けめぐる。「いちばん」に愛してもらえなかった雅海の心には、確かに何かがあった。雅海が誰にも言えずにひとり抱えていた思いとは何だったのか──。


選評

『イエロー・チューリップ』は、ブライダル業界で働く女性の生き方や現代の恋愛の形をストレートに表現した作品です。
 「女性の描き方はとてもうまくて、読みやすかった。登場人物の心理を説明ではなく、何げない会話の中で印象づける感性がすごい」(石田)、「ワーキングウーマン小説というジャンルがあるとすれば、十分、出版に価する完成度」(梅村)といった好評価がありましたが、その反面、失踪した主人公の元彼の存在が浮上するあたりからの展開には、うまく入り込めなかった委員も多かったようです。その入り込めなさは、以下の理由に尽きるでしょう。
 「後半の部分は、主人公の元彼がなぜ失踪したのか、その疑問をミステリーの要素として引っ張るための装置だったと思うが、無理がある。その謎解きのファクターとして佳代ちゃんという重要な登場人物が最後のほうになって登場するというのは、読者に対してフェアーではない」(坂梨)。
 ただ、やはり前述したワーキング小説としての面白さには捨てがたい魅力があり、委員の半数以上の方は二次選考を通過させることに賛成しました。
 ちなみに、以下の委員の意見は、この作品を読んだことのない方にはチンプンカンプンだと思いますが、いちおう報告しておきます。「事故とはいえ、姉を殺してしまった女性を愛していた雅海。その女性が忘れられず、追いかけられずにはいられなかった雅海の心情をもっと深く描いて欲しかった。真理子の整形が、雅海を見つける鍵になるなど、もう一ひねりあってもよかったかもしれない。仕事(結婚式)であった人から偶然、雅海の姉の事故の話を聞くのはちょっと強引」(高嶋)
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