第二次選考通過作品詳細

『あの日見た光』 時友

舞台は昭和54年。太平洋戦争中、親友を南海の島に置きざりにしたという過去をかかえるカメラマンが、出版社から戦争を振り返る本への協力を依頼される。一度は固辞したものの、病床の妻のことばに封印していた過去に踏み込む決意をする。傷ついた魂の彷徨と再生の物語。


選評

『あの日見た光』の舞台は昭和54年。太平洋戦争中、南方はベララベラ島での戦闘に加わった写真家の主人公が、親友を島に置き去りにしたという心の傷に立ち向かい、その地を再訪するという感動的な戦記小説です。
 まず、「戦友との友情に心動かされた。戦争によって割かれた絆という題材もドラマチックで感動的」(潮凪)という現代の恋愛のエキスパートとも言うべき 委員の意外な(失礼)評価を筆頭に「戦争の悲惨さを真面目に、正面から取り組んた意欲作」(石田)といった好評価がありましたが、ところどころに取材の甘 さや文章表現の稚拙さも目立ち、沖縄の場面での「やったさぁ」などの方言の強引さが指摘された一面もありました。
 「フィクションとしての面白さと、ノンフィクションとしての面白さとの境があいまいで、良心的なドキュメント番組が提供する感動を超えないという思いが 否めない」(梅村)という意見も多くの委員が同調するところで、作中の登場人物が、戦場となった島の村長に「全ての日本人に変わって(ママ)謝ります」と 言う場面は、フィクションとして創作されたエピソードだとすると問題ありかもしれません(かつて黒澤明が『八月の狂詩曲』で劇中人物に同じようなセリフを 言わせたとき、海外プレスから猛烈な非難をされたという前例もあります)。戦争を真正面に描くなら、「昭和54年の55歳の主人公」の物語ではなく、「平 成18年の81歳の主人公」の物語として描く可能性もあったでしょうし、あるいは「昭和20年の20歳の主人公」の物語として書く方法もあったのではない でしょうか。
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