第一次選考あと一歩作品詳細

『Ave Maria が聴こえる場所』 吉澤 慎一郎


選評

フリーライターのリュウジは建設会社の談合を暴くために潜入取材をしたが、逆に逮捕され拘置所に入れられてしまう。その間、リュウジが書いた小説の読者、リノアと文通していくうち、リュウジはリノアに惹かれていく。リノアは小学生のころ、教師からレイプされて男性恐怖症になっており、何度も自殺を図るが、出所後のリュウジはそのたびにリノアを救う。だが、最後にリノアは白血病にかかって死の床へ──。自殺した元カノの人生を、数年前、数年前へとさかのぼっていく書き出しに引き込まれた。かなりの文章家の手によるものだ。男性恐怖症で白血病患者のリノアとの愛も、筆が行き届いている。ただ、残念なことに冒頭に出てくる「自殺した元カノ」の記述が、リノアと出会ってからは不思議と出てこず、もしかしたら主人公は、リノアに対しても死後は一度も振り返らない冷酷な性格なのではないかと勘ぐる読者もいるだろう。主人公はなぜ、男性恐怖症や離人症といった病を持つ女性を好きになってしまうのか、とても興味があるのだが。「難病もの」「トラウマもの」という多少、手垢のついた題材を料理する仕方にももうひとつ工夫がほしかった。

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