第一次選考あと一歩作品詳細

『ぺちゃんこリー』 若茶 くけい


選評

天才プログラマのリーは、神との交信によって画期的なソフトをたったひとりで開発し、億万長者になるが、大学時代は内向的で孤独な男だった。リーは同級生で、バイセクシュアルの優歌に求愛され、恋人になるがその恋愛関係はプラトニックなものだったため、ヤリマンの優歌は者足りず、リーの兄で、オツムはゆるいがプレイボーイの歩を恋人にする。その後、優歌は誰のものとも知れない子を妊娠し、歩と結婚。億万長者になったリーの保護下で生活をはじめる。その生活は、リーの自殺とともに終わるが、莫大な遺産は優歌の娘、翠が成人した際に支払われることになっていた──。上記のエピソードを、歩→リー→優歌→優歌のいとこと、四人の話者が同じところに戻って語るというユニークなループ形式。4人の話者たちは、同じエピソードを語りながら「自分は何のために生まれてきたのか?」ということに答えを見つけようとしているように思える。つまり、この作品は「宇宙の根本原理」を探ることで、「人間の営み」である恋愛を語ろうという壮大な意欲作であることがわかる。また、登場人物それぞれの独白として描かれる各章の文章は、あえて拙い言い回しで描かれているようだが、そこかしこに冷めた知性が光り、なかなかの文章力だと言える。この物語で「宇宙の根本原理」をはっきりした形で見つけるのは天才プログラマのリーだが、その「宇宙の根本原理」が、読者にもわかるような言葉で語られる場面はない。その点が消化不良で、尻切れトンボ感を残す。最後に出てくる「優歌のいとこ」の語りによって、何か腑に落ちる結末が用意されているかという期待感も裏切られてしまう。それがとても残念だ。

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