第一次選考あと一歩作品詳細

『ブランシェ』 正木 陶子


選評

鎌倉を舞台に、個性的な美少女・美園と画家を目指す姉・美里、美園の同級生・遼の三人の心の動きを描く趣向で、繊細でありながらブレのない確かな文章でリリカルに描き出された心優しい登場人物たちの演じる淡い恋物語に堪能させられました。とくに前半の、遼と美園の恋愛未満的な友情を描く文章は舞台となった鎌倉の情景とともに一編の映像詩のような美しさ。また、遼と美里が美術館で出会う場面もしっとりとした情感がただよっています。ただ、全体を通してみると、どうしても二つの物語が接合されたような印象がぬぐえませんでした。姉の元彼の押しかけ女房になってしまうような、ややエキセントリックな美園が実に魅力的に描かれているため、遼が旧友の姉・美里に惹かれていく物語がかすんで見えます。優れた文章力を活かすためにも、シンプルで骨太の物語をていねいに描きこんでみたらいかがでしょう。

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