第一次選考あと一歩作品詳細

『夏の日、尿に濡れて』 一夫関


選評

義侠心に富み、人智では及ばぬことができる「電車」、そのことを主人公に伝える、「電車屋の屋台」……レトロさの漂う幻想的なモティーフは、個人的にとても好みです。「電車」が乗客に話しかける際の独特の調子も、この著者ならではのものを感じます。彼岸に去った恋人が自身の娘として「生まれ変わる」という設定はありがちだが、独特の幻想風味に彩られて、それなりに読ませる。ただ、電車と主人公以外の乗客との関わりなど、エピソードを盛り込みすぎで、途中で飽きが来る。枝葉を刈り取ったほうが読みやすくなるように思えます。タイトルも一般受けしないでしょうね。「尿」というもので、原初的な性欲を表しているというのはわかるのですが、このタイトルでないとだめだというようには思えません。このことが象徴するように、多数に支持されるのは少々厳しいかもしれません。

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