第一次選考あと一歩作品詳細

『恋のタイムリミット』 岡 環


選評

ともに配偶者に先立たれた65歳の文雄と66歳の彩子が、高齢者専門の出逢い系サイトで出会う。3カ月もの間、文雄は彩子にアタックし続けるが、なかなか会ってはもらえない。やっとのことで文雄は彩子と出会うことができるが、間もなく彩子は死んでしまう。彩子には自殺願望があったのだ──。高齢者のドキドキする恋愛を描いた作品。青春の恋が、ごく近い未来に「大人になる」ということで儚く燃え上がるのと同じで高齢者の恋も、「老い先が短い」からこそ、儚く燃え上がる。そんな視点に新鮮さを感じた。メールやブログなどのバーチャルなメディアを利用し、一字一句に一喜一憂する老人の姿を異様と感じる人も多いだろうが、その心理にはリアリティがある。ただ、物語がバーチャルな付き合いが中心で、ふたりが出会うまでのいきさつしか描かれていないところは少し物足りなさを感じた。高齢者同士の恋人の日常、セックスといったあたりまで踏み込んで描かれていればもっと読み応えのある「老人恋愛もの」になったのではないか。また、彩子の死因は自殺だったのか? という結末も、あえてぼかして書いてあるのだろうが、そこまで書ききる体力がなかったのではないかという印象を受けてしまう。

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