第一次選考あと一歩作品詳細

『君の名前』 辛島 圭一


選評

経済新聞記者の圭一は、取材先でアルバイトをしている静音という若くて美しい女性と出会い、恋に落ちる。ところが、静音は日本人と韓国人とのハーフであり、日本人の母親から虐待に近い仕打ちを受けており、さらには精神病を患っているという事実を知る。圭一は、それを受け止めようと思うが、運命のいたずらで他の女性と浮気をしているところを見られ、ふたりの仲は破局してしまう。さらにその後、静音は事故で重症を負う。圭一は静音との愛を取り戻すために病院へ──。文章がきっちりと練り上げられていて安心して読めるだけでなく、京都という舞台設定を生かし、風情ある作品世界を創り出している。また、作中に差しはさまれる在日問題や、経済界の動きなどの記述も邪魔にならず、作品に溶け込んでいる。ただ、残念なのは、圭一と静音の恋愛関係が前時代的で驚きに欠ける点。「デート」「結婚」「セックス」などの段階において今の時代に新しい恋愛観を提示するような要素があれば、もっとこの作品は高く評価できたと思う。

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