第一次選考あと一歩作品詳細

『いつか来る夏』 桜賀 ミツル


選評

幼いころ、父に捨てられたトラウマのせいで、不倫でしか男性を愛せない依里。ある日、彼女のもとに不倫相手の息子、駿が現れ、一夜をともにする。一方、駿には小学生のときに性犯罪にまきこまれ、そのトラウマから男性恐怖症になったしまった恋人、夕夏がいた。一時は、依里の魅力にとらわれる駿だったが、夕夏を救うために立ち上がる。駿の姿に、不倫ではない恋をつかみとろうと決意する依里だった──。非常によくまとまった文章で、安心して読めた。エンターテインメント作品として、完成度はかなり高いと思う。が、「トラウマとの闘い」というテーマは、いささか手垢にまみれた観があり、もうひとつひねりが欲しいと思った。あと、駿と依里が会ったその日にベッドを共にする場面は、恋愛小説の手順としてはいささかもったいなく、唐突に感じる。改札口での別れの場面がとてもよく書かれているだけに、とても惜しい気がする。

一覧に戻る