第一次選考通過作品詳細
『わが恋は炎なりき』 木下 富砂子
木上八郎は、戦前の満州で商売をしている兄を訪ね、兄嫁に生涯の恋をする。やがて時代は戦争に突入。兄嫁への一方的な思いを抱き、操を立てながら、八郎は世界を遍歴する。やがて、放浪から帰ってみると、兄は事業に失敗して失踪。兄嫁との結婚生活は破綻していた。しかし、八郎の捜索は間に合わず、兄嫁は自殺してしまう。
選評
成就しない恋愛であり、「自殺」という結末も小説としては安易に感じる。だが、戦前・戦後という舞台設定には、リアリティがあり、現代とは違う恋愛観を提出するという点では意味があるかもしれない。(「かつて、燃えるようなプラトニックな恋愛があった」などと誰かがキャッチコピーを考えそう)主人公は、恋する兄嫁には、その思いさえも伝えず、ひたすらひとりよがりにその存在を思い続けながら世界を旅する。そのようにして読むと、「思い姫」を心に抱いて世界を遍歴する騎士道物語とも読めてくる。戦争を舞台にしたニッポンのドン・キホーテ。捨てがたい魅力のある作品だ。
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