第三次選考通過作品詳細
『一秒でも長く君と同じ世界にいたい』 かわなべ かろ
主人公・松田シロが、ある朝目覚めると、そこは砂漠の真ん中だった。呆然とする彼の前に空から電話ボックスが降ってくる。外界との接点はこの電話ボックスのみ。119番にかけても相手にしてもらえない。とまどっていると電話が鳴った。電話をかけてきたのは、シロ同様、気づいたら突然、大海原に浮かぶボートに一人で乗っているという女性。二人は互いの置かれた状況を話し合い、なんとかこの悪夢から脱出しようとする。何度目かの119番とのやりとりで、シロは自分が死んだことになっている、それもセックスフレンドの浜本キリに刺されてのことだと知らされる。砂漠の中の電話ボックスに閉じこめられた主人公が、電話という唯一のツールを使って不条理な状況の謎を解こうとする姿を描く「砂漠の王」というパートと、浜本キリとの過去が回想される「記憶の僕」というパートが交互にあらわれ、全体像を形づくる。物語の進行とともに、セックスだけの関係として割り切ろうとするシロとあくまで彼を愛そうとするキリとの葛藤、シロが罪を犯していたこと、上司・大木との確執などが徐々に明らかになる。シロを刺したのははたしてキリなのか、なぜ、このような不条理な状況に投げ込まれているのか、わずかな手がかりをもとに苦悩するシロは、やがてキリへの愛を自覚するが、すべての謎が明らかになったとき、死か、絶望的な生か、という究極の選択を迫られることになる。
書店店員
砂漠を舞台に繰り広げられる、シュールな物語のパワーに圧倒されました。この「いかにも」というタイトルにも、意味深な意味が隠されていて腑に落ちる感動があります。
(丸善/上村祐子さん)
好き嫌いが分かれそうな文章ながら、結末まで読み手をぐいぐいと引っ張る力がある作品。女性が書いたものとは思えない、乾いた世界観に脱帽。
(紀伊國屋書店/白井恵美子さん)
不条理なシチュエーションの謎と、主人公の乾いた心理の描写があいまって、不思議な切なさを感じさせてくれました。主人公が両親を殺すに至った理由や、主人公が最後に生と死を選択する根拠などに強引さが見られる点が気になりますが、何かを感じさせる作品であることは間違いありません。
(オリオン書房/白川浩介さん)