第一次選考通過作品詳細

『走れ正義』 亜能 退人

正義は高校一年生。ある日、恋人の真紀がヤクザに売り渡され、借金のかたとして外国へ売られてしまうという。「そのかわり、12時までに1000万円を用意したら返してやる」正義は走る。果たして彼は、制限時間のうちに真紀を救うことができるだろうか?


選評

12時間のうちに1000万円を稼ぐ。不可能に思えるその課題の解決方法がおもしろい。「落とした小銭」「駅のホームでの『痴漢だ』」など、こうしたタイムリミットものは、主人公が絶体絶命の窮地をどう脱するか、その手段のおもしろさで読ませる。前半は、その面白さが光っている。惜しむらくはそれが中盤から薄れてしまったことで、正義がヤクザらの追っ手から逃れるところは、あまりに簡単に事が運んでしまうので興ざめしてしまう。映画『ミッドナイトラン』のように、飛行機、電車、バス、徒歩と逃走手段を変えて長い距離を移動させるなどの工夫があれば、もっと面白いものになっただろう。また、囚われの身になっている真紀の場面も、映画『バニシング・ポイント』のラジオ局のDJの場面のように、逃げる者とそれを応援する者、追う側の思惑の三つ巴の情報合戦という具合に展開できたかもしれない。ラブストーリーの要素も、ただ「好きだー」という真っ直ぐな思いだけでなく、真紀が正義を巻き込まないよう、あえて悪者になるために殴ったシーンを丁寧に描いてほしかった。などなど、難点はあれどもとても楽しめる作品だ。荒唐無稽で漫画風のストーリーだが説得力があり、読者をシラケさせることなく、最後まで引き込むパワーがある。

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