第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(10)

私は今、恋をしている/林あづさ

輸入雑貨店に勤める夕菜は、店を回ってくる宅配業者、佐伯に惹かれていた。佐伯は、周囲の空気が変わるほどの美形だ。飲み会の帰り、夕菜は強引なキャッチセールスにあい、見るからに水商売ふうのスタイルの佐伯に助けられる。昼間の仕事先の人間に夜の仕事を知られたくなかった佐伯は、夕菜を助けながらも彼女に辛くあたる。ひょんなことから、夕菜は風邪で高熱を出した佐伯の看病をしに、彼の家を訪ねることになる。しかし、その場で佐伯は経験のない夕菜を強引に抱いてしまう。その後も佐伯は自分の夜の商売を口外しないようにと、口封じにビデオを回して夕菜とセックスするなど、セックスだけの関係を続ける。それでも佐伯のことが好きな夕菜。彼女は、そこまでして秘密を守ろうとする佐伯のために、徹底して彼に従い尽くそうと決心する。

評価を迷う問題作として、あらゆる意見が交わされました。肉体関係から始まる恋、それもリベンジポルノ絡みということで、作品としては好意的には見られないものの、こうした状況をひたすら素直に受け入れる主人公の心理に、「これもありかと思わされてしまった」という選考委員もいました。登場人物の感情が読み取れず、人の感情を想像する能力を欠いた作品で、これをわざと造形しているとしたら相当な実力の持ち主ではないかという意見もありましたが、共感やリアリティに欠ける部分も多く、残念ながら通過には至りませんでした。

この主人公を「ひたむき」と取るか「感情がなくて気持ち悪い」と取るかは読み手に任される部分ですが、地味ながら、ある意味強烈な個性を持つ主人公を描けていることは、非常に評価できます。「計算のない恋愛」の世界を突き詰めていけば、さらにおもしろい恋愛小説が書けるかもしれません。