第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(9)

故意のキューピッド/月下雅歌

作家志望の冴えない「僕」の前に、「チェルシー」と名乗る恋のキューピッドが現れた。見た目は4歳児だが、口が悪く、難しい言葉をたくさん知っている小憎らしい天使は、「僕」に恋人を作ってくれるという。そして周囲にいる女性たちに、次々と矢を放ち始める。その矢が刺さったとたん、みんな「僕」に恋してしまうのだ。大学時代から気になっていた友だちの真美にも矢が放たれ、とたんに彼女は「僕」を意識し始める。けれど「僕」は他力本願で恋が叶うことには疑問を感じていて――。

毒舌な4歳児、チェルシーのキャラクターが魅力的で、楽しく読めたという好意的な評価が多く集まりました。また、最後に主人公が矢に頼らずに告白するところに関しては、クライマックスをきちんと描けている、との意見がありました。

反面、その設定とリアリティの描き方には指摘が多く、とくにキューピッドの矢の効力については、10年なのかクリスマスイブの夜までなのかがわからず、こういうファンタジーでは設定をきちんとしないとめちゃくちゃになってしまうという意見もありました。また、エピソードやキューピッドの矢の造形も既視感があるという点で、目新しさを感じられず、残念ながら通過には至りませんでした。

小粒ながら楽しく読める作品に仕上がっていたので、ファンタジーの設定と物語の下地をしっかり作り込めば、さらに読み応えのある作品が描けることでしょう。