第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(7)

きみは消えない/反町由美

 大学生の魚住高久は、ある夜、家に侵入してきた少年・暁の複雑な事情を知って、同居人として迎え入れる。高久が身元を調べると、じつは暁は少女で、幼少期に母と離婚した父親から性的虐待を受け続けたことによって多重人格に陥り、母親と一緒に暮らし、その愛人に殺された双子の兄、暁の人格を作り出しているとわかる。

母親を探し出して殺すことを生きる糧にしている暁に、なんとか復讐を留まらせようとする高久だが、肝心の主人格は眠ったままで、別の人格の水月という女性が現れる。水月は主人格を救って欲しいと願いながら、高久と惹かれ合ってしまうが――。

 児童虐待と多重人格という、重たく難しいテーマに果敢にチャレンジし、ここまでの文学に昇華させた筆力に目を見張ったなど、文章力と作品の完成度の高さには高い評価が集まりました。

反面、児童虐待、多重人格という重いテーマが重いままで、読後感がよくないという意見も多く、とくに虐待については多重人格の理由をそれに頼るものが多く、小説としては幅広い可能性を持ってほしいという指摘もありました。ゆえに、残念ながら通過には至りませんでした。

全体的な完成度には一定の評価が集まっていましたので、違うテーマでじっくりと書き込んでみたら、さらなる飛躍につながることと思われます。