第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(5)

ハローベイビー/きみよし藪太

 ナツの妻のモモは、腐敗桃化症という、全身が桃のように熟れていき腐り果てるという病で亡くなった。見た目のよいナツはモテる男だったが、唯一惚れて結婚したのがモモだったので、彼女が亡くなったあと、どんな女性を紹介されても見向きもしなかった。

そんなある日、モモの弟であるユキが、女性しかかからないと言われていた同じ病気に侵されていることを知る。病気は、ユキの身体を徐々に女性化させていくという。密かにナツに好意を寄せていたユキは、気持ち悪いと言われる前にナツの前から姿を消そうとするが――。

 詞的な文体を駆使した、雰囲気のある小説で、その独特の読後感とオリジナリティには高い評価が集まりました。文体のおかげで、重い話も重くなりすぎず、まとまった世界観で描かれていました。

反面、物語の構成に関しては、「ナツとユキがモモの死を乗り越えて恋人になった時点からを描いてほしかった」と、ラストが消化不良という意見も多く、残念ながら通過には至りませんでした。

オリジナリティのある文体を生かして、物語の起承転結を意識して描けば、よりよい作品を作り出すことができるようになるのではないでしょうか。