第9回日本ラブストーリー大賞 2次選考あと一歩の作品(1)

ユメクイ/石原悠里子

悪夢に苦しんでいる人の涙を食べることで、その苦しみを取り除くことができる瑠乃は、戸倉という男性のもと、「ユメクイ」をビジネスにして暮らしていた。ある日、優という少年の夢を食べようとした瑠乃は、料理に混ぜた優の涙を嘔吐してしまった。瑠乃は優と和解し、彼の治療に成功するが、同時に自身の過去とも直面することになり――。

「人の夢を食べて悩みを取り去る」という“ユメクイ”という発想に関しては、高い評価が集まりました。生きにくく、痛みと苦しみに満ちたいまの世の中を象徴するような作品で、25歳という若さにしてこの重いテーマと向き合って表現した点に関しても、よくチャレンジしたという声があがりました。

反面、構成やキャラクター造形に関しては厳しい意見が多く、「“ユメクイ”というアイデアだけで書いてしまったのでは」という印象を持つ選考委員もいました。とくに戸倉の描き方が弱く、「主人公の戸倉に対する愛情が、保護者に対するそれから恋人に対するそれに変わっていくプロセスが理解しにくい」という意見もあり、残念ながら通過には至りませんでした。

アイデアは秀逸なので、キャラクター造形と物語の構成を磨き、さらにはラストに希望の光を感じさせるような作品が描けるようになると、さらによくなることでしょう。