第9回日本ラブストーリー大賞1次通過作品(16)

『アタシの舞ちゃん』/山田 美帆子 

 あらすじ 

小さな会社で事務の仕事をしている舞ちゃんこと俵舞は、三鷹の築40年(家賃は5万5千円)に住む35歳の独身OL。10年前に捨てられて痩せこけた猫を拾って「トワ」と名付けて、地味に暮らしている。男っ気なし、近所のカフェで知り合った年下の秋くんに片思いしながらも恋愛に積極的になれない弱気な舞ちゃん。優しくて愛情あふれる飼い主に幸せになってほしくて、猫のトワは舞ちゃんの片思いを成就させるべく、ときには人間のアドバイスに耳を傾け、訳知り顔の猫仲間のムーンに相談したりして奔走。トワの努力の甲斐もあり、彼女に変化が訪れるが……。

評価・感想 

堅実で真面目な舞ちゃんと、エリートでモテすぎるゆえに夢見がちで打たれ弱い年下の秋くんとの恋愛をどうにか取り持とうとする猫のトワが、健気で可愛い。愛情あってこその毒舌、容赦ない厳しい指摘も可愛い猫だから許されるというもの。舞ちゃん本来の魅力を引き出してくれた元男で経験豊富なラナさん、舞ちゃんの隣に住む異性関係にハデな麻奈美ちゃん、そして麻奈美ちゃんの愛猫のムーンが登場することで、舞ちゃんの素朴で周囲の人を和ませる人柄が自然に際立ちました。とくに、トワとムーンの会話は人間のアラサー女子の複雑な心情をよくつかんでいて、センスのよさを感じます。恋愛に消極的で控えめな舞ちゃんを、ときには自分の娘のように心配する猫のトワの視線に愛情が感じられて、登場人物の弱さにも光を当てているところがよかったです。

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