第9回日本ラブストーリー大賞1次通過作品(14)

『ベーカリーオーマミューダ』/宮本 奈々 

 あらすじ 

製パン技師の小玻璃(こはり)は、パンを愛するあまり、パンを粗末にした客と喧嘩して勤め先のホテルのパン製造部門を辞めてしまった。仕方なく実家に戻ると父が事業に失敗して工場をたたみ、家も抵当に入れられてしまったという。何か足しになるものはないかと亡き母の部屋を整理したところ、謎の登記簿を発見した。確認のためその登記簿の土地、北海道の日礼町に向かった小玻璃はそこがほとんど価値のない、まさに原野商法の地だったことを知る。しかもその土地には果樹園を営む黒づくめの大男・大豆生田(おおまみゅうだ)が住んでいた。家もなく行きどころのない小玻璃は、大豆生田に交渉し、彼の住む元ペンションの一角を借り、住み込みで果樹園の果物を使ったベーカリーをオープンさせることを思いついた。人付き合いが悪い大豆生田は地元民からも敬遠される存在だったが、小玻璃との奇妙な共同生活を続けるうちに、その頑なな心がほどけはじめて……。

評価・感想 

みんな大好きパン屋もの&北海道農業ライフものの素敵なミックス。しかもシルバー交流や町興し要素まで混じって、なかなか盛りだくさんである。肝心な恋愛要素も、人慣れない孤独な獣のような男子をパンとごはんでちょっとずつ手慣づけていく展開はなかなかの胸きゅん。大豆生田が「意外と太い……」と言いながら小玻璃に膝枕をしてもらうところなどぐっときます。会話のテンポの良さなども魅力的です。難を言えば、そんなに小玻璃が酷い目に遭わないというか、多少なにかあってもすぐ解決してしまうところがご都合主義的で軽すぎるかなあと。なにか、徹底的などん底をあいだに挟んだほうが、深みと盛り上がりは出るかと思います。冒頭の失業と父親の事業失敗もじつは引きずっていることもわかるのですが、大豆生田の闇に踏み込んだことに比べ、小玻璃の闇には踏み込まないので、踏み込んでもよいのではないでしょうか。

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