第9回日本ラブストーリー大賞1次通過作品(10)

『なでしこ荘のまかないごはん』/多古田 依央 

 あらすじ 

気ままな一人暮らしの大学生、桃園春香はお菓子尽くしのダメダメな食生活が母親にバレてしまい、まかない付きの下宿「なでしこ荘」への引っ越しを命じられ、嫌々下見に行く。ところが、春香と同い年の大学生で、下宿の管理人兼料理担当の秋良(あきら)の料理にひと目惚れならぬひと口惚れ。早速、引っ越して、その味を覚えようと積極的に料理を手伝うようになる。

「なでしこ荘」の住民はクセのある人ばかりだが、いちばんは近所に住んでいるのにご飯だけ食べに来る態度がデカいイケメン、梅之助。春香は毎日、おいしいご飯を食べながら、気がきいて優しくて女子力満点で住民に慕われている秋良と、感じは悪いがたまに優しさと真面目さを見せる漫画家志望の梅之助の両方に魅かれていく……。

評価・感想 

これは恋愛小説というより料理小説。そのぐらい料理のシーンが多いし、たまらないぐらいおいしそうなのだ。

登場人物はみんな漫画チックで、著者が「クセのある」と書いているクセもありがちだけれど、好感が持てる。ストーリーもほとんどなにも起こらない。風邪をひいた春香を秋良と梅之助が看病したり、最後までまったく姿を表さなかった最年長住人の離婚と再婚が描かれるぐらい。そのほのぼの感が逆にいい。

まるで秋良クンのお料理を食べたように、ささくれ立った気分を優しくなだめてくれる小説は貴重だ。

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