第9回日本ラブストーリー大賞1次通過作品(6)

『ハローベイビー』/きみよし 藪太 

 あらすじ 

ナツはエントランスに薔薇が咲き乱れる水色のアパートに住んでいる。そこに住みたがった妻のモモは、腐敗桃化症という全身が桃のように熟れていき腐り果てるという病で亡くなった。見た目のよいナツはモテる男だったが、唯一惚れて結婚したのがモモだったので、彼女が亡くなったあと、どんな女性を紹介されても見向きもしなかった。

そんなある日、モモの弟であるユキが女性しかかからないと言われていた同じ病気に侵されていることを知る。病気は、ユキの身体を徐々に女性化させていくという。

そんななか、ユキは自分がナツに好意を寄せていることに気づき、動揺する。気持ち悪いと言われる前にナツの前から姿を消そうとするのだが……。

評価・感想 

作品を読み始めたとき、映画『クロエ』(利重剛監督)を思い出しました。映画は、肺に睡蓮が宿るという奇病に侵される妻とそれを支える夫の純愛を描いた作品で、悲しいけれどとても印象に残るキレイな作品でした。

本作は、妻モモが腐敗桃化症という奇病で亡くなったあとのお話。心を閉ざした夫ナツのあれた生活と彼女との会話の回想、そしてモモの弟ユキが現れることによって、話が展開していきます。結構重いストーリーのはずですが、表現が上手なので、登場人物の気持ちに自然と寄り添うことができました。作品が澄んでいる感じでしょうか。映像的で雰囲気のよい作品でした。

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