二次通過【1】

『五色の石と、片袖の侍』/いちか

心にある傷を抱え、生きる気力を失っていた大野椎奈は、ある日通勤途中に大型トラックに撥ねられる。目を覚ますと森に横たわっており、突然現れた三人組の男に襲われてしまう。間一髪、侍姿の男、涼に助けられた椎奈は、その森が、現実世界で意識不明となり、生死をさまよう人がやってくるパラレルワールドだと知る。生還するためには、自分の額に埋め込まれている同じ色の「石」を集める必要があり、元の世界に戻った時には、森での記憶は全て失われるという。椎奈は不思議な森と石の仕組みにすぐに魅せられた。涼も属している「村」での生活を始めた椎奈は、様々な人々との出会い、出来事を経験する。そして次第に心の傷を乗り越え、涼と愛し合うようになる。やがて二人は生還の時を迎えるが……。

パラレルワールドの仕組みが入り組んでいる割に、比較的すんなり理解できる部分が評価されました。それでも説明的にならざるを得ないためか、作品自体の枚数の多さは改稿の必要も感じます。選考委員の一人は、とある漫画作品を挙げてその影響を受けているのでは? という指摘をしていましたが、もちろん盗作というレベルではなく、逆にこの設定を1から作り上げているとしたら、その発想力は素晴らしいといえるでしょう。ファンタジーのジャンルは本賞としては前例が少なく、生まれ変わったラブタメ大賞に相応しいとの意見も集まり、通過となりました。