あと一歩【15】

静かの海/筏田かつら

あらすじ&選評

なかなか就職先が決まらない大学生・矢野行成と、引っ越してきたばかりで周りに馴染めないでいた小学六年生のマサキ。偶然知り合った二人は、近所に住む歳の離れた友人として徐々に親交を深めていく。しかし、行成が「かわいらしい男の子」と信じて疑わなかったマサキは、「真咲」という名のれっきとした女の子だった。真咲はそのことを打ち明けられないまま行成へ恋心を抱き始めてしまう。一緒にいることが日常になりお互いをかけがえのない存在として認識していく二人。ただ真咲は「女性である」ことだけを言えないでいた。そうしている内に、なんとか就職先を見つけた行成が街を出て行く日が近づいてきてしまう……。 

よくある大人と子どもの友情物語なのかと思い読み進めていたのですが、不器用でどこまでも実直な二人のキャラクターがとても魅力的で次第に引き込まれていきました。『小学生の男の子』と勘違いしたがゆえに心を許した行成、そんな行成と接する内に自分らしさを取り戻していく真咲。育った環境も年齢も性別をも違う二人が、お互い人として影響し合い成長していく姿に心が温まりました。ただ、「コレ!」という華やかさに足りる点や、どこかで聞いたことがある、ありふれたストーリーなので、もうひと工夫欲しいと感じてしまいました。次回作に期待します。