あと一歩【7】

赤き折り鶴舞う頃に/加部 鈴子

あらすじ&選評

お家存続のための縁談を嫌う男勝りのお嬢様と、身分違いで想いを告げることもできず、影のように彼女を見守る乳兄弟の佐吉。そして、二人の前に現れた新しい時代を切り開こうとする手練の剣士の三角関係が美しく描かれていました。上州大戸関所番人堀口啓之丞の一人娘である千鶴は父親に結婚を急かされながらも、自分より強い男でなければ嫁ぎたくない……というこだわりを捨てられない。彼女よりも強い男となると佐吉か安中藩士・朝倉と名乗る剣士か。彼女自身どんな答えを選ぶのか……。

この魅力的な三人の微妙な関係がどう動いていくのか、時代背景も人物も丁寧に描かれていることもあり、最後まで一気に読ませます。ラストでは、千鶴が新しい時代の息吹を感じるように、爽やかな風を感じられるような描写も粋です。慶応四年にあった鳥羽伏見の戦いから1か月後、行き倒れた朝倉と名乗る剣士を助けた千鶴。朝倉の「武士も町人も男も女もない新しい時代が、近いうちにきっとやってきます」という言葉に特別なものを感じ、周囲とは全く違う考えを持つ彼に少しずつ惹かれていく心の動きなど、少しじれったいくらいですが、だからこそ応援したくもなる。素敵な作品でした。ただ、「どうして今、この時代背景で描くのか」という疑問や、幅広い層にアピールするエンターテインメント性の弱さを覆すだけの個性は足りません。少し厳しいようですが、次回作に期待します。