あと一歩【6】
心を受ける/鈴木ちひろ
あらすじ&選評
由佳里は、小学四年生のときに担任だった大河内先生が大好きだった。嫌いなもの、苦手なものを避けてきた由佳里にとって、いつも自分を褒めてくれる大河内先生は忘れられない存在だった。そんな由佳里は高校三年生になり、進路の相談をしに先生に会いに行く。先生に対する強い思いを確認した由佳里は、先生に「つきあって欲しい」と告白し、18歳と31歳の恋愛が始まった。その後、8年の順調な交際を経てふたりは結婚。しかし、由佳里は初めての子どもを死産したことで、心を病んでしまう。犬を人間の赤ちゃんのように育て続ける由佳里に先生は……。
心に響く優しい文体なのになぜか色気を感じる文章が非常に魅力的。主人公の繊細でマイペースなキャラクターも惹かれるものがある。細かい状況描写も巧みで、特に先生と生徒が再開して恋人になるシーンは、これからどんな展開になっていくのかが非常に気になり、ページをめくるのがもどかしいくらいだった。ただ、二人が関係を持ってから結婚するまで順調すぎて中だるみ感があったのと、ラストがあっけなくて物足りなかった。犬に人間のおむつをはかせ続けるほど心を病んでしまった主人公が苦しさから抜け出すきっかけとして、夫が涙を流した日記を見ただけでは、弱くはないだろうか。才能がある人だと思うので、書き続けて欲しいです。次回作に期待しています。