あと一歩【1】

夕陽色のブイヤベースに、ちむどんどん/安倍柚実

あらすじ&選評

離婚した藤丘沙里は幼い2人の子どもを連れて兄がいる沖縄に移住した。そこで偶然出会った地元の漁師、一真にさびれた市場にあるレストランに案内され、名物のブイヤベースが気に入って通うようになる。市場には個性的なおばあたちと猫のゆるい時間が流れていたが、それには馴染めなかった。ところが、ある日、沙里に店を任せるというメモを残して、店主がいなくなってしまった。 安定した生活をするために公務員試験を受けるつもりでいた彼女は悩むが、レストランに魚を卸している一真に後押しされて店を始める。だが、前のような味が出せずに客は減って行き、兄には店を反対され、新しい環境に子どもたちは荒れ、市場のおばあたちともうまくいかない。一真に魅かれるが、彼の気持ちもつかめない。そんなとき、店が壊れるような台風に襲われ、沙里は1人では何もできないことに気づいて状況が変わっていく――。 

 

子どもたちへの愛情と女手ひとつで育てて行く大変さ、自分の作った料理をお金を出して食べてもらうことの難しさと喜び、沖縄のおばあたちの気難しさと情の深さ、自由な一真への恋心と諦め、沙里の揺れ動く気持ちが丁寧に書かれていて、恋愛小説というより、”大人の女性もまだ成長できる”というビルドゥングスロマンだと感じました。 沖縄のさびれた市場の風景や個性的なおばあたちが魅力的でいい味を出していますし、負けず嫌いな沙里と自由で大らかで暖かい一真との掛け合いは心がほっこりします。惜しいのは、もう少しこの2人の間が濃密だったら、もっと「ちむどんどん」、胸がドキドキしただろうということです。次回作に期待します。