第10回ラブタメ大賞一次通過作品【8】
『ウロボロスな恋』/絵理香
あらすじ&選評
ゆりは銀座でナンバーワンのホステスだった。しかし震災後、ばったり客足が途絶え、銀座を去ることになる。就職活動もうまくいかず、生活のために始めたコンビニエンスストアのバイトもなかなかなじめない。そんな折、熱心に仕事を教えてくれるバイト仲間の美大生・佐藤に次第にひかれるようになり、二人はいつしか恋仲に。お金はないが夢に突き進む佐藤が、お金だけにとらわれてきたゆりには眩しく映り、自分のこれまでの価値観を改めて見直すようになる。ある日、佐藤からゆりをモデルに2枚の絵を描きたいと依頼される。テーマは人の二面性。人にはみな二面性がある。相反する価値観が相まって人間はできている。だからこそ、いろんな人とつながり合うことができるのだ。佐藤から教えられ一回り成長したゆりは、パリへと旅立った佐藤への思いを心に秘めながら、再び夜の世界へと戻っていく。
銀座の裏の顔、ホステスの心情、人間模様など、随所にリアリティがあり、つい読み込んでしまいました。入念な取材の元に執筆されたのではないでしょうか。すべての書き手が医師に取材をしたからといって医療小説を書き上げられるわけではないのと同じように、やはり作者の洞察力と表現力が優れているからこそ、本作はみ手をひきこませるのだと思います。惜しむべくはラスト。二人の関係をむりやりきれいに終わらせてしまっている感じがして、非常に残念でした。キーになっている2枚の絵にからめたエピソードをからめるなど、主人公の成長を表現するにあたって、もうひとひねり欲しかった。しかし、キレのいい文章を武器にブラッシュアップしたものをもう一度読みたいと思えたため、通過としました。